写真のトレンドは時代とともに移り変わっていきます。当時は分からなくても、数年経ってからの振り返りで明確になることが多いです。2021年のトレンドもはっかり分かるのは、しばらく経ってからになるでしょう。しかし、2020年などのクリエイティブ業界などを思い返すとある程度の推察は可能です。2020年と2021年に関しては、やはり世界的なパンデミックを外して考えることはできません。パンデミックがクリエイティブの分野にもたらした影響は非常に大きいからです。
多くの人にとって映像による通信は身近なものでなく、平成から続く音声と文字による通信が主流でした。それが日常的に使われるようになるなど、いわゆるニューノーマルな形態が定着したのです。これは数年後に振り返ると、革命といって差し支えのないほどの変化となるでしょう。これらの動きは写真のトレンドにも当然のように影響を与えました。
多様性が一気に高くなったのですが、そのなかでも特に目立ったのは非日常というテーマです。自分たちの境遇を視覚化するかのごとく、身近にある非日常を表現する作品が増えました。非日常というとピカソが描いたようなイラストを思い浮かべる人もいるでしょう。あくまでも写真であるため、そこまで現実離れはしていません。しかし、さまざまな技法によって、日常にはありえないものを投影しています。CGを多用することになったこともポイントです。自粛を求められていたので、外に撮影にいくことが難しいという実情がありました。その状況でも豊かな表現を可能にするために使われたのが実情です。しかし、苦し紛れなネガティブな対策ではなく、あらためてCGの可能性を再認識するきっかけになりました。
立体感を大切にすることも2021年におけるトレンドの一つです。前述のように、映像でのやり取りが増えましたが、それらでは実際に会うときのような立体感が希薄となります。その反動といわれていますが、写真作品のなかでは平面的な表現を避けるような傾向が見られます。ダイナミックな作風が多くなったことも、やはりパンデミックが大きな要因と考えられています。自粛しなければならない状況において、これまでのようにスポーツや運動をするのは困難です。人々から体の動きが失われつつあったので、それを覆したいという信念を盛り込むと、ダイナミックな写真に仕上がるというわけです。パンデミックが収まるにつれて、トレンドは少しずつ変わっていくでしょう。